« 歪みを見ている | トップページ | ツルツル »

英会話教室

 
 
 
その狭い部屋は暖かく、通りがかりのいろんな人が立ち寄っては、粗末な椅子に座って時間を過ごし、また立ち去っていった。

ある日、そこに粗末な木製のソファが持ち込まれた。誰が持ち込んだかはわからない。

木製のソファで、寝転ぶ者が現れ始めた。だいたい寝転ぶ者に家は無く、長時間をそこで寝ころんだまま過ごしていた。

ある日、ひとりの寝転ぶ者がラジオを持ち込み、大音量で英会話講座を流し始めた。寝ころぶ者はスピーカーの真ん前で横になり、そのままいびきをかきながら眠ってしまった。いびきはとても大きかったが、それ以上にラジオの音量は大きく、立ち寄る者たちはその煩さに閉口し、次々と立ち去っていった。
それが何日か続いた。

その日もやはり、寝転ぶ者の脇で、ラジオは爆音の英会話を奏でていた。
しかし、この日の様子はいつもと違っていた。

英会話を聞く者が現れたのだ。
その者はうつむいて、ラジオの音に耳を傾けているように見える。
数日経つうちに、二人、三人と、同様の仕草をする者が現れた。彼らの身なりは様々で、まれに女性もいた。

夜の十二時になると、その狭い部屋にはオートロックがかかる。そうなったら、嫌でも部屋を出なくてはならない。

その時間になるまで、座学は続く。
誰もしゃべらない、誰も動かない、静かな爆音の英会話教室は続く。
 
 
 


« 歪みを見ている | トップページ | ツルツル »