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川沿い

 
 音が消えた川沿いの土手を歩いていた。
 深夜。
 身の丈くらいに育ちきった葦の向こうに、人影が見えた。
 人影はクシャミをするようにバネを効かせて、ひっきりなしにおじぎのような動きをしている。よく見ると、大きく口を開けていた。

 人影はどうやら叫んでいるようだ。けれど、こちらには全く声が聞こえてこない。

 その時にやっと、音が消えたと思っていた川沿いは、常に水が流れる音に満たされていることを知った。水の音は、あまりに空気の中に食い込んでいて、それが音であることすら気付かせてくれない。
 たとえ全身で絞り出した絶叫も、そこでは水の音にかき消されてしまう。

 人影は、まだ叫び続けていた。
 
 
 


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