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名字

 
顔を知っている女性とすれ違った。
僕は彼女と直接の知り合いではなかったけれど、彼女の夫は職場の先輩だった。

先輩は昨年亡くなった。

僕は先輩のことを名字で呼んでいて、たまに先輩宅での夕食に招かれたときなどは、奥さんのことを下の名前で呼んでいた。

彼女とすれ違ったとき、僕は自然と、名字で呼びかけた。
先輩の顔が頭に浮かんだ。

彼女は僕の顔を覚えていてくれて、笑顔で「おはようございます」と軽く挨拶をした。

それ以上特に何も話さなかった。挨拶だけして僕らはすれ違い、そのままそれぞれの行き先に歩いていった。

その日は雨だった。
 
 
 


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