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僕の住む部屋には窓がない。窓枠をはめる四角い穴だけが開いていて、いつも外気に晒されている。アパートのすぐ隣には工場があって、工場は建物ぎりぎりにひっついている。
だから冬場でも凍えることはない。

ある日工場が突然取り壊された。

外気をふんだんに取り込むようになった僕の部屋。とてもじゃないけど暮らしてはゆけないので工場主に文句を言ったら、リフォーム業者がやってきた。彼らは部屋の様子や建物の周りをひととおり見たあと、全面的な改修工事が必要とだけ判断して、軽トラックで去っていった。

寒い部屋で待つ。

戻ってきた軽トラックは、10枚くらいの襖を積んできた。どうするつもりなんだろうと不思議に思いながら見ていると、リフォーム業者は大きなハンマーを持ち出して、あっという間に壁一面をぜんぶ取り壊してしまった。

眺めの良い部屋。

リフォーム業者は手際よくそこに襖をはめてゆく。どの襖にもきらびやかな大八車の絵が描かれていて、ひょっとしたらとても高価な襖なんじゃないかと不安になった。

「大丈夫ですよ。無料です」

安心しつつも申し訳なさが拭いきれず、軽トラックが去ってゆくまで、僕は何度も頭を下げた。

雨に濡れたらどうするのだろう?
やっぱり結構寒いんじゃないか?
そもそも建物の外壁に襖っておかしくないか?

考えるのはやめにした。もう工事は終わったのだ。
セーターを着て、手袋をはめて、上着を羽織って、襖をすべて開けてみる。

晴れていた。ほんとうに良い景色だった。
 


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