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割れ鍋に割れ蓋

 
 
まったく覚えが無いのだけど、とにかく、ホテルのベッドの上にいた。

驚いて飛び起きて、とりあえず洗面所で水を一杯飲んだ。そこにはやたらと大きな鏡があって、扉を開けっ放しだったおかげでさっきまで寝ていたベッドの様子がよく見える。

人がいる。女性だ。よく見えないけど、たぶん裸だ。
見覚えがある。昔つき合っていた人だ。
女性はこっちを見て、ちょっとだけ申し訳なさそうに言った。

「ずっと黙ってたんだけど、私、ものすごい浮気性なの」

そういうタイプには見えなかったなあと思いつつ、驚いた旨を素直に伝えると、

「あなたもそのうちの一人。当時あなたに伝えた私の事情もほとんどが嘘。ごめんなさい。これくらい時間が経たないと言えなかった」

当時言ってくれればよかったのに。
そうすれば少しはお互いに楽だったかもしれないのに。

彼女は自身の病的な浮気性に振り回される毎日から未だに逃れられないらしい。その割には一途でなくてはならないという矛盾した思いもあるそうで、常に複数の相手に真剣な愛情を捧げているそうだ。全く気が付かなかった。

「そんな時間があるようには思えなかったんだけどなあ」

どうやら彼女が常に考えているのは時間のやりくりのことばかりだそうで、それはそれでひどく骨の折れる日々だろうなと想像できる。僕にはその甲斐性は無い。

「怒らないの?」

今更怒るも怒らないも、と思ったところで、当時の自分だったらどう思っていただろうなと想像してみた。
少し巡らせただけで、考えを止めたくなるくらい醜い自分を想像できた。正直、そんなザマになるのを経験しなくて良かった。

「ありがたいと思っています」
「ごめんなさい」

そうだった。確かに僕らは当時から、常に噛み合っていなかった。
 
 
 


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