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お神輿

 
夜、沿道でお神輿を見ていた。

担ぎ手たちは、僕がもう連絡を取らなくなった知人達で構成されていて、みんな明るく一生懸命な、とても魅力的な表情を湛えながら、汗を流してお神輿を担いでいた。

あちこちに据えられたスピーカーからそれぞれ別々の音楽が流れてくる。最初のうちはどんな音楽が流れているのだろうと耳を傾けていたけれど、だんだん疲れてきて流れるまま混ざり合った音を聞いているうちに、自然と身体が熱くなってきた。

たくさんの湿気を孕んでいるおかげで、空気に少しだけ重量がある。妙に心地良い。
僕は酔っぱらっているのだろうか?

建物の影から、半被を着たかつての知人達がひとりづつ現れて、腕まくりをしながら神輿担ぎに向かってゆく。沿道でかき氷を食べながら、やはり僕はそれを見ている。

どうして、あまり羨ましくないんだろう?

お神輿に向かう一人が、僕の存在に気が付いた。
彼は僕に笑顔で手を振って、口の動きだけで「ひさしぶりだね」と言って、既にお神輿を担いでいる何人かに僕の存在を知らせた。知らせを聞いたそれぞれの眼が僕を探し、目が合うと笑顔をこちらに向け、また神輿担ぎに精を出す。

理由もなく嬉しかった。僕は彼らが向けてくれた笑顔に酬いなくてはと思った。思い直して背筋を伸ばし、幾分か眼を大きく開けて、一生懸命お神輿を見続けた。
 


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