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ゴムタイヤ膨らませ選手権

 
 
一回目のトライに失敗した僕は、次こそは成功させようとゴムタイヤのノズルを咥えた。
さっきは一息で膨らませようとしたから失敗したのだ。次はできるだけ小刻みにやる。

僕は荒い呼吸を心がけながら、小刻みにゴムタイヤへ息を送る。ゆっくり膨らんでゆくゴムタイヤはある大きさからドーナツ型の形状を逸脱し始め、ところどころに鏡餅みたいな膨らみが出始めた。息の流入は完全に勢いづいていて、僕の意思ではもう止められなくなっていた。

「もう割れる。そろそろ危ないです」

脇で聞こえる声にはっとして、僕はゴムタイヤを見る。分厚かったゴムタイヤは膨らむ毎にどんどん薄くなっていって、質感にも変化が出始めた。荒いゴムの質感だったはずなのに妙な艶が出始めて、かつてゴムタイヤだったそれはなんだかキノコ雲のような不気味な形に変化していた。

破裂したらまずいと思って、とりあえず不気味に膨らんだゴムタイヤを近くに駐めてあったセダンのトランクに押し込み、僕も頭をトランク内に突っ込んで、再びゴムタイヤに息を送り込んだ。

まだ大丈夫だ。まだ若干余裕がある。
セダンが傾き始めた。また何かまずい兆候なのだろうか。脇から裏返った声が聞こえる。

「もういいですから。もう優勝ですから。やめましょう。もう危険です」

僕はそれを聞いてもまだ息を流し込むのを止められず、息は次第に荒さを増し、顔はどんどん熱くなり、黒いゴムタイヤはひたすら膨らみ続けた。
 
 
 


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