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神々の名

 
 
しばらくの間、目の前の丸いお皿に置かれた食べかけのトーストを見つめてから、彼は言った。

「パンの神様は?」

口ごもってはいけない。即座に返事をしなくてはならないのだ。

「砂糖の神様です」

彼は笑って目の前のパンをかじり出し、嬉しそうに再び質問を始める。

「おいしい。コロッケの神様は?」
「山いもの神様です」

考える時間は無い。即答で返し続ける。

「冷蔵庫の神様は?」
「マッチ箱の神様です。ただし半分だけ」

「半分の神様。わりばしの神様は?」
「輪ゴムの神様です」

「ジャンケンの神様は?」
「ひらがなの神様です」

自由連想法のみたいなものだろうか。しかし目的は無い。とにかく語尾に『神様』をつければ何でもいいのだ。彼は笑顔を浮かべたり顔をしかめたり、すこし跳ねて頭を抱えたりしながら、そこら中に潜む神々の名を言語化してゆく。僕はそれに追随するように、そこから洩れた神々の名を補足し続ける。

「ラッパの神様は?」
「イトーヨーカドーの神様です。駐車場の」

とにもかくにもそうやって、彼と僕は神々を顕在化させ続ける。
過去のだれかが言っていたが、宿る神々は八百万柱はいるとのことだ。

二時間ほどで母親が帰ってきて、その日の儀式は終わる。数年間続けているのだが、未だ終わる見込みはない。
 
 
 


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