« 金魚の群れ | トップページ | レコード »

カブトムシ

 
 
夕方6時のニュースを聞きながら、僕は透明ケースの蓋を開け、中を覗いた。

一匹の大きなカブトムシが、腹を上に向けている。僕のカブトムシだ。
もうずいぶんと弱っていて寝返りが打てない。口からオレンジ色の舌が時折出たり入ったりしていて、6本の足のうちどれかが、ときどき小さく動く。

オガクズと蜜の匂い。夏の夕方に肌で感じるすえたような空気。

暑さの盛りを幾分か過ぎた夕方はやや涼しさが過ぎていて、時間が過ぎる度に周りの色が沈んでゆくのがわかる。

全国のニュースから地域のニュースに切り替わった。近所にいそうな風情のキャスター。途端に滲み出る地方色。

それに応えてか、ミリ単位で足を一本上下させるカブトムシ。少しだけつつくと、カブトムシは小さく舌を出した。

もうエサはいらないかな、などと考えているうちに、ニュースが今夜と明日の天気予報を伝える時間になっていた。薄い暗がり。明かりをつける直前の時間帯。

まだ動くかな。もう止まっちゃうのかな。

小さな、本当に小さな動きを確認しようと眼を皿のようにしているうちに、本当に夜になってしまった。

退屈なニュースが終わった。そろそろ7時だ。毎週見ている番組が始まってしまう。僕は透明ケースの蓋を閉めて、テレビの前に急いだ。
 
 
 


« 金魚の群れ | トップページ | レコード »